2014年9月7日日曜日

建設者 エッフェル

エッフェルは、エッフェル塔を建てただけではなく、彼の正体は鉄を使用した建設技術者、である。別名、鉄の魔術師と呼ばれている。その程度のことは、大学に進んだときぐらいには知識としては持っていた。ニューヨークの自由の女神は内部は鉄骨構造で、エッフェルが作ったというのも有名である。

エッフェル塔は、川を渡るためではなく、天に向かって橋を架けただけである。


2001年3月頃、大学院修了の時の卒業旅行にフランスに行った。時間が無く、エッフェル塔には登っていない。船に乗ってのセーヌ川の橋梁巡りは参加し、感動した。


さて、その時は、 フランスの通貨はユーロになる前の「フラン」であった。ヨーロッパでは、科学者が尊敬されている、とは良く聞くが、200フラン札は、エッフェルである。裏面は、言わずと知れたエッフェル塔の絵が描かれているが、表は彼の顔とともにあるアーチ橋が描かれている。帰国の際に、フランはもう無くなるから、このエッフェルの200フラン(当時4000円ぐらいの相場)は保存しようとずっとしまっていた。


明日からフランスへ出張に行く。旅行グッズを整理していたら、その200フラン札が出てきたのだが、それを見て、その出会いに感激して涙が出てきた。13年前によくわからなかった表面に描かれたアーチ橋が、今回の出張で脚を伸ばしてぜひ訪れたいと考えていた、ガラビ高架橋だったのだ。




再度言うが、橋は裏面ではなく、表面である! 日本で言えば、10円玉の平等院鳳凰堂ぐらいの知名度であろうか。国民の多くは必ずしも訪れたことはないけれど、名前と形はよく知っている、と。



ギュスターヴ・エッフェル パリに大記念塔を建てた男
アンリ・ロワレット著
飯田・丹羽訳
西村書店
1989年発行
(当時2800円+税)

を読んでいる。この手の本は、当初内容と質がわからなかったので、先に図書館で借りて読んでいたのだが、内容が良く、絶版だったので中古で買い求めたものである。

その本によると、エッフェルの三大傑作は
 エッフェル塔
 ガラビ高架橋 1884年
 パナマ運河第一期(フランスが試みて財政等で失敗した幻の初案。後にアメリカが別の設計で完成させる。)
である。


ガラビ高架橋とは、フランスの南部の山岳地帯を、高さ122mで渡る高架橋である。彼は、すでにポルトガルのドーロ川で、同様の形式で成功させていた。その形式でできるということが世界に示された以上、ライバル会社も同様の形式で設計案を出すかもしれないことが予想されたが、次のように随意契約で発注がなされたという。


上記の書籍を引用する。
「この工事を競争入札とし、大手建設業者に設計案と見積り書の提出を求めることはできる。しかし、G・エッフェル氏だけが類似の建造物をすでに建設していることと、またその大部分を独力で発明してドーロ川橋の建設に使用した新しい架橋用機材とその経験を、一人彼だけが持っていることからみて、受諾するにふさわしい提案をしているG・エッフェル氏と協議することが望ましい。」

(中略)

その省議では、「最終的には国家にとって数百万フランもの節約となる新しい経路でトリュエール谷を横断するという考えが、エッフェル氏のドーロ川橋の建設によって技師団に与えられたのであるから、この工事を彼以外の者にゆだねるのはその点からも公平を欠くであろう」と結論された。


引用終わり。

もし随意契約でなかったら、別の設計者が作って別の構造形式になったのであろうか、それとも当時はこの構造だけが唯一達成できる形式だったのだろうか。競争入札であっても結果として彼が勝ち取っていたのかもしれないが、オリジナリティ、を尊重する考え方に学ぶところを感じる。その敬意も込めて、国を代表するお札の表に掲載されていたと感じる(私が渡航した当時の20フランとは、ざっくりいうと、4000円ぐらいの価値である)。


ドーロ川橋をそのままそっくり繰り返したものではないそうだ。脱線したときに列車の墜落を防ぐために、「軌道を橋桁の上面から1.66メートル下げたところに設置し、「脱線したとき、橋桁が列車を受け止める堅固な壁になるようにした」という。



フランスといえば、プレストレストコンクリートの原点フレシネーであり、こちらもできるだけ見て回りたいし、結構勉強したつもりである。そちらについては別に報告する。


現在、学校で、鋼構造、橋梁工学も授業で教えている関係で、自然と鋼橋についても興味を持ち、調べている中で、今回強く行きたいという所まで高められた。13年前の学生時代の終わりに、今は手に入らない200フラン(4000円)を、ユーロ移行後には使えないことはわかっていても、その価値を見いだして大切に保存していたことは、当時の自分を褒めてあげたい。



さて、紙幣・硬貨の中の土木構造物、というジャンルもおもしろい。私の知り合いが、土木学会誌の編集に携わっているので、是非取り上げてもらいたい、とリクエストしておこう。

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