2013年6月30日日曜日

うどんからコンクリートへ

香川高専 林研究室のキャッチフレーズはたくさんあるが、ひとつが「うどんからコンクリートへ」である。

以下、話が長くなるので、先に結論を書く。

「うどんからコンクリートへ」は、前田又兵衛氏というコンクリートの素人がアイデアを出して自ら実行してコンクリートの技術開発を行ったことを踏まえ、「異分野技術の融合の大切さ、コミュニケーションの大切さ」を改めて心に刻みたい、ということを願ってつけた。

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私は香川県出身で、横浜国立大学に進学する前の高校生の時、まずは県内にうどんブームが訪れようとしていた。しかし、きっかけはそのブームとは関係なく、両親は転勤族なので進学後は二度と高松には戻れないからと思って、最後の年の高校3年生の時には、転勤族という一見自分の故郷を持たない宿命の人として、香川を心に刻んでおきたいと本気で思い、うどん巡礼をしようと思いたった。

そもそもの理由が違う、というこだわりがあって、県内で大ブームになりつつあったマニアックなうどん屋を紹介した書籍「恐るべきさぬきうどん」をあえて買わず、電話帳のタウンページを切り取って、その住所と地図を頼りに自転車を使ってうどん屋開拓を1年間で100軒制覇した。高松市北部は大抵行った。これができたのは、高松高校の3年生は、受験のための実力テストが何度もあり、その時は大抵昼で終わる半ドンだったので、時間があったからである。

その遠征うどんとは別に、通常日は昼ごはんはうどんを食べるので、結局高校3年生の時は、300食は食べていると思う。これは讃岐の学生やビジネスマンの平均値と思う。

大学に入ってから、自分で讃岐の小麦粉を取り寄せ、讃岐うどんを作るようになり、友達の間ではとても評判が高かったと記憶している。何度か高松に行った際に、麺切り包丁と、うどんの湯切りの網、麺棒を買ったりして、本格的になった。

ホームページを作っていたので、讃岐うどん特集を組むということで、雑誌「AERA」から連絡があり、横浜の自宅で取材を受けたことがある。ただしこれは、私は掲載されなかった。

コンクリート研究室に入ったのは、池田尚治先生のもとでコンクリート構造がやりたくてであったが、話のネタに、コンクリーを練ることと、うどんを練ることは同じだ、周囲に話をしていた。実際、水/小麦粉比は大切で、混和剤(塩)もコシを出すには必要で、季節(小麦粉の含水比)によって水の量も調整し、混和剤の効きが温度により異なるので季節で配合を変える。まさにコンクリートそのものである。


研究室でコンクリート構造関係の論文を検索していた際、当時はインターネット検索などないので、すべて論文集を手でめくってタイトルを調べなければならなかったが、その時に、たまに面白い論文が目に飛び込んでくることがある。

その時も、面白い研究が目に留まった。うどんを練ることにヒントを経て、コンクリートを練る方法を開発した、という論文。ボックスを組み合わせたミキサーを開発したと。なるほどね、と、当時まだ修士1年生くらいで、似たようなことを考える人がいるものだと思っていた。今考えると、偶然の出会いであったのだが。(学会誌などでも取り上げられて有名だったようだが、当時はまだ、それを読んでいなかった)

その後何度か、うどんを打つのにヒントを得て、コンクリートの練り方を開発した人がいるという話は聞いたことがあり、コンクリート界には結構うどんをやる人が多いのだなと、勝手に思っていた。結果としては、同じ人の話を、何度も聞いていただけである。当時まだ若く、前田又兵衛と聞いても、実は誰のことかわからなかったから、頭に残らない。


その後だいぶ忘れていて、最近改めて指摘されて気づいたのは、その開発者が、前田建設工業社長の前田又兵衛氏であったことだ。そうだったのか、全てが繋がった。

研究室のキャッチフレーズを、今月フィーリングで決めたのち、一応原典には当たっておかねばと思って検索すると、前田氏の著作はいくつもあるので、さっそく、以下の本を注文した。全部は読み終えていないが、ハイライトだけ目を通した。考えをどうやって実現するかの過程が書かれていて面白い。知っている人(博士論文を審査された岡村甫先生などなど)も出てくる。氏の博士論文もぜひ読みたい。



私が香川の地で、今からうどんとコンクリートの研究をするのか?、というのはどうでもよいが、理系でない文系の前田氏が何を考え、どうやって実現したのか、という実行力については改めて学ぶことがある。

発想法、創造法、といったところに通じるものがある。創造設計学という畑村氏の提唱をどうやって実務に取り入れようかと思っていたが、全てが繋がってくる。アイデアを戴こう。

このような思いは後付けであったが、とにかく、学生時代に出会ったあの論文が、15年を経てここにまた戻ってきたことが、素直に嬉しい。

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