- 研究室での実験:メンバーが限定されている、洗浄スキルの教育を受けている、実験精度維持・怠けたら次回困るという洗浄へのモチベーションがある
- 学生実験:はじめて触るので洗浄の仕方がわからない、多人数でうやむやになる
100回綺麗にしていても、1回誰かが掃除を忘れてしまうと、あちゃーというようなことになる。割れ窓理論ということで、使う前の試験器具が汚ければ、それを洗うモチベーションも薄れるのは実際にあるだろう。
写真:汚れたスランプコーンの例。なお、うちの高専には実習で複数班が同時にコンクリートを練ることができるよう8個のスランプコーンがある。綺麗に管理したスランプコーンもあり、実際にはそちらをメインで使っていることを断っておく。この写真は棚の奥の方から出してきたもの。
私は監査や研究などで生コンクリート工場へ行く機会は少なくないのだが、やはり、スランプコーンなどの用具が綺麗かどうかは職業柄見てしまう。プロの仕事なので、さすがに精度に影響がありそうな内面が汚れていることはないが、外側は手入れを行っている会社とそうでない会社では、だいぶ異なるように思う。
私が前職の横浜国大助手の時に、横浜の東伸コンクリート(東伸コーポレーション)の試験室で、ある技術者の方が、ビーカーのセメントの汚れを取るのに、塩酸を使って洗浄していたのが印象に残っていた。器具をピカピカ綺麗にしており、目から鱗だった。そこでは塩酸は、セメント廃液へのアルカリ中和で使う目的で所有されていたと思う。その方法が使えるかというと、学校ということもあって、洗浄目的で塩酸を使うのは厳しいなと思って、そのまま何もしていなかった。
その後高専へ異動して7年越しとなる最近、メスシリンダーなどがどうしてもセメント成分で曇るのが気になって、ふと、ポット洗浄用のクエン酸を使ってガラス器具を漬けてみたところ、効果てきめん。ガラス・プラスチック製のメスシリンダーを綺麗にすることができた。ガラス器具の場合、見栄え以上に、目盛りを読むために透き通っていないといけない、という目的が強いと思う。
以上は、ガラスやプラスチックの器具の話であった。コンクリートといっても、うっすらした曇り程度の話である。
さて、以下はもっと分厚いコンクリートの堆積の話である。コンクリートの試験をする非常に重要な器具のスランプコーンは、鋳物製で重いし取っ手などが入り組んでいるので、コンクリートで汚れてもブラシ洗浄が十分でなく汚れが残る。外側は汚れが沢山蓄積しているし、本当は綺麗であるべき内面も薄汚れているものもある。
研究で使うものは別途綺麗な器具をキープして使っているが、私自身の個人意見だが、学生実験で使う分は少し精度が落ちても良い、というような考えは多少あった。
コンクリートは一度固まってしまうと強度が出るのでブラシでこすってもとれないし、水でふやかして柔らかくなることもない。その場合、金属スクレーパーでこすり落とす、グラインダーで削る、などするが、スランプコーンはとくに曲面なのでとても難しい。中途半端にこすっても傷つくので良くない。綺麗に削り取る労力を考えると新しいのを買った方が安いともいえる。
そこで、ふと上記のクエン酸が思い立って、試しに5リットルぐらいでクエン酸を溶いてハンドスコップを入れたところ、泡が出始め、1時間ほど漬けてみて、その後水で洗ったところすこぶる良かった。ただし、スコップ内面の角部分に1センチ単位で溜まったコンクリートはとれなかった。
写真:使用前下、使用後上。この写真は、後での検証のときのもので、1時間ではななく1晩漬けた後だと思う。
こんな感じでスタート。全部漬けていないのは、検証のため。
写真:右が使用前、左が使用後。ただし、1つのスランプコーンをやるために、2回に分けるのは億劫。
当初、40リットルのプラスチックの舟で行っていたが、水深が浅かったので最終的には、スランプコーンが横に寝て浸かる、高さの高い容器があったので、それで行った。
写真:スランプコーンがぴったり入る深めの容器。上のスランプコーンは、コンクリートが残ったところを重点的に時間延長している様子。写真右のスランプコーンは、多分モルタル用か何かの小型版なのでサイズ感を見誤るのでご注意を。
写真:クエン酸は、ポット洗浄や掃除用の普通のもの。粉末。
今回行ったのは次のような条件である。
- 水20リットルに対して、クエン酸約1000g。4日間同じ液を使い続けているが、出し入れ時にロスした分、水を追加して少しずつ薄くなっていくものの、効果は持続しているようだ。
- できるだけ間口が狭くて深い容器の方が、使うクエン酸が少なくて済む。
- スランプコーン1つを、日中8時間または夜間16時間つける、1日に2このペースで洗浄。
- 液から出したら、たわしでこすりながら水洗い。たわしでとれないのは、ワイヤブラシやスクレーパーでこするのだが、コンクリートが少しは柔らかくなっているようでクエン酸をしないときよりもとれる。ひどい汚れは、もう1回追加で漬ける。
- 表面のコーティングがとれるので、そのままではすぐに赤さびが出るので、雑巾で拭いて乾燥させてから、スプレーオイル(556など)でコーティング。
こびりついたコンクリートは残る場合があったが、まず、広くセメントがうっすら付いているのは明らかにとれて金属の地肌が出る。仮にいくつか追加の削り取りが必要であっても、残ったコンクリートに対して集中的に対応ができるのでそれだけでも効果がある。
注意点としては、酸とアルカリのガスが出るので、絶対に屋外でかつ風通しの良いところで行うこと。細かい泡がじわじわと出てくる。
写真:1日2交代で、少しずつ作業が進んできた様子。一番右は、研究用で元から綺麗だったが。
なお、漬ける時間であるが、1時間つけても効果はあり、一晩でももっと効果がある。クエン酸は食用でもあるのでそれほどpHは高くないと思われ、スランプコーンが溶けてなくなる心配はなかった。
デメリットというか課題もまとめておく
- 表面が白く汚れる(ムラになる)。水で洗ってもとれないので、何か反応していると思われる。それ自体も完全に除去できれば良いのだが。
- 同様に液体が飛び散った周囲も白く汚れる。水で流せば問題ないはずだが、色は少し残る。まずは影響ない場所で試してもらいたい。
- 金属面に赤さびがでる。これは、既にできている酸化膜を剥がしてしまい金属の素地がでるためと思われるので、薄くオイルを塗布するなどして対応。見栄えは問わないので、乾いた布で拭くことでも良いはず。フレッシュコンクリートの試験に影響を及ぼさない処理を。
以上のように、コンクリート研究室でのノウハウというのは、多数あるが、器具の洗浄など生活に根ざしたことほどあまり開示されることはないと思われる。ただ、私自身色々なコミニュケーションで参考にさせて戴いたこともあるので、pay it forward として、逆に周囲へ発信する責務もあると思い、お世話になった方への感謝も込めてこのように公開したい。
コンクリートガラの処分方法、コンクリート切断方法等も、各機関様々と思われる。ネタは多数あるので、乞うご期待。